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世捨て人のようなマスターの営む喫茶店で、偶然居合わせたイラストレーターさんが絵を描いてくれた話
久しぶりに平日にオフを取った。

午前中に所用を済ませた後、六本松に新しくできたというカフェへ奥さんと行ってみる。住宅街の中の古い雑居ビルの奥にその店はあった。看板もなく、知らずにたどり着くことは困難であろう。本当にここに店があるのかという変な場所。

店はガラス張りで、中はカウンターのみ6席ほど。我々はこの日の最初の客のようだ。長髪でメガネをかけた30代くらいの長身の男性がマスター。どこか世捨て人のような雰囲気。メニューはコーヒーやチャイや抹茶ラテなど、飲み物オンリー。小さく「写真の撮影は1枚だけでお願いします」と書いてある。インスタ目的で来られるのが嫌なのかもしれない。小さな書棚があり、その選書からも俗世と距離を置いた人生であることが伺える。

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奥さんが頼んだ抹茶ラテは、上が抹茶、下がミルクときれいに2層に分かれており、フォトジェニック。思わずこれは撮らざるを得ないね、と声が出る。「でも1枚だけだよ」と自分が言ったら、マスターが苦笑いして「大丈夫ですよ」と言ってくれたので、奥さんは2回撮影した。マスターは意外と気さくで、この店の成り立ちやこの物件に決めた理由などを聞いたらすらすらと答えてくれた。共通の知人などもあり、感覚の近さも感じる。彼も冷蔵庫から何か飲み物をコップに移して飲んでいる。ビールのようだ。実に良い。

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そうこうしていると、もう一人お客さんが来られる。60代くらいの女性。彼女は慣れた感じでカウンターに立ち抹茶を頼むと、そのままカウンターで絵の具を取り出した。「絵、描くんですか?」「そう、イラストレーターやってるの」。この店に初めて来てから4日連続で来ているらしく、ふるまいがこなれている。マスターが抹茶を入れている間、彼女は数分だけ店の外に出た。そして戻ってくると「はい、プレゼントフォーユー」と言って、奥さんに1枚の紙を渡してくれた。そこには、カウンターで抹茶ラテを飲む奥さんの姿が。えー、と絶句する我々。

「あなた雰囲気が良いのよ、それで描きたくなって。何が良いって姿勢が良い。背が高いから姿勢が良いだけですらっと軸が立って絵になる。たまにこういう時があるのよ、私が描いたんじゃなくて、あなたが描かせたの。というか、神様が描かせたのね。気持ちだけが先走って、手が追い付かないんだけど」。

これは宝物だね、なんて喜ぶ我々。
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住宅街の奥にある世捨て人のようなマスターの営む店で、偶然居合わせたイラストレーターさんが絵を描いてくれた日。平日であることも相まって何とも不思議な感覚で、本当にこれが現実なのだろうかと思うような出来事。しかしその店は確かに、僕の住む街にある。

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by rin_magazine | 2020-10-08 07:27 | 日々のできごと | Comments(0)


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