幸せな記憶とともに
 今日の午前中、佳維は無事に最後のおっぱいを飲むことができた。朝食を食べ終え、いよいよ最後のおっぱいの時間になる。いつも通り、嫁さんをソファまで連れて行きおっぱいを催促する佳維。

静香「佳維、これが最後のおっぱいだからね。佳維が飲みたいだけ飲んで良いからね。終わるときは自分で決めてね」。
佳維「うー」。

 本当に理解しているのかどうかは分からない。僕はビデオカメラを回しながら、手元には一眼レフカメラも置いて、その様子を収める。飲ませ始めてすぐに涙ぐむ嫁さん。片方を飲み、もう片方を飲む。10分くらいだろうか。1往復したとき、意外とあっさりその場を離れてしまう佳維。嫁さんが「もういいの、佳維? おっぱいこれでおしまいだよ」と言うと、ちょっと考える顔をしてまたあっさりソファのほうに戻って来た。嬉しそうな顔になる嫁さん。明らかに嫁さんの方が、終わってしまうのを名残り惜しんでいる。
 そうしてまた左、右と1往復。すると意外なことが起きた。突然、佳維が飲みながら両手を頭の上にあげて拍手をしたのだ。そして両手を結び、大きな丸を作った。佳維がまだ一歳にもならない頃、彼が独自で編み出した「美味しい」のサインである。久しぶりにそのジェスチャーを見て、感動にふける両親(この辺で俺も泣けてきた・笑)。そしてしばらくしてから、佳維はおっぱいを飲み終え、その場を離れておもちゃの方に向かっていった。

静香「佳維もういいの? これで本当に最後だよ」。
佳維「うー」。

 確かに「うー」と言った。現実を受け止められないのは、やはり嫁さんの方だ。

静香「本当にいいの? もう飲めないんだよ」。

 佳維はもう戻ろうとしない。

静香「最後ならちゃんとおっぱいにバイバイ言いに来て」。

 すると佳維は、満面の笑みで嫁さんの元に寄ってきて、膝の上に倒れこんだかと思ったら起き上がり、おっぱいにバイバイした。バイバイをしても、嫁さんはまだどこかで「また飲みたいっていうはずだ」と思っていたんだと思う。もう一度「本当にバイバイ?」と聞き返す。佳維はもう一度笑顔でバイバイする。そしてありがとうのお辞儀。それでもなお、「本当に?」と聞く彼女。佳維は返事をせず、嫁さんと目を合わすまいといった顔で「でんしゃ!」と行っておもちゃの方へ向かう。名残惜しそうに見つめる彼女に、僕がとどめを刺した。

前園「もうちゃんとバイバイしたんよ。何回も言わせちゃいかんて」。

 自分で言っておきながら泣けた。でも多分、佳維もちゃんと分かっててバイバイしていると思ったから。嫁さんは両手で顔を覆って泣いた。寂しい気持ちが極まったんだと思う。僕は佳維に「がんばったね」と言って抱き締めた。すると佳維は、電車の音が出る絵本をおもむろに取り出して、「トゥルルルー」と発車ベルを鳴らした。それは、赤ちゃん時代に終わりを告げ、男の子になるための発車ベルだった(と勝手に思っている・笑)。


 うちの嫁さんは母乳に関して、桶谷式の先生のところに通っている。彼女から聞いたことを文章にしているので、正式な桶谷式の話と違ってたらごめんなさい。昨日の日記に写真を載せたカレンダーは、ちゃんと子ども本人に、これが最後のおっぱいなんだよ、ということを分からせるために作るそうだ。そして、ちゃんと本人が納得した上で、「自分は思う存分、心残りなくお母さんのおっぱいを飲んだんだ」という幸せな記憶とともに、おっぱいとお別れさせることが大事なんだそうだ。佳維にも、ちゃんと幸せな記憶が残っただろうか。あの拍手と、両手で作った「まーるー」の合図と、お別れを言いにきたときの笑顔が、その証だったと思いたいな。ビデオにも残したしね。あいつがいつか不良になったら、このビデオを見せて言おう。「お前、母ちゃんがこんだけ辛い思いしておっぱい飲ませてくれたから大きくなったんやぞ。調子乗んなよ」と。何だか意義深い一日だったように思う。
by rin_magazine | 2009-07-04 20:35 | 子どもたちの成長記録 | Comments(0)


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